WEB版「神流アトリエの山暮らし」/絵と文:大内正伸/写真:大内正伸+川本百合子
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▼囲炉裏




囲炉裏の本質は「炎」

   ついに囲炉裏を始めた。土間から続く部屋に石で組まれた炉が隠れていたのだが、
いずれこの囲炉裏部屋を復活させたいと思っていたのだ。

廃材で枠をつくり、すき間を石と粘土でふさぎ、灰をつぎ足した。
アトリエに初めて灯る囲炉裏の炎は、カマド・薪ストーブをしのぐ感動を僕らに与えてくれた。

いつものにこやかな笑顔で、下に住むY先生がやってきた。周囲にはコンビニがないので、
ここはしばしば隣人たちのコピー利用の場所となる。書類を相方が作っている間、
Y先生は囲炉裏に上がってお茶を飲みながら、懐かしそうに言った。
「昔はどの家にも必ず囲炉裏があり、主が座る席が決まっていたものだ」

今はその炉に薪ストーブが載っていたり、囲炉裏を開けていたとしても煙を嫌って炭を使う例がほとんどである。
僕らも最初は炭を使うつもりだった。しかし山奥の温泉宿で薪が燃える本物の囲炉裏に出会ったとき、
囲炉裏の本質は「炎」だと直感したのだ。ストーブのようにガラスを通さないで見る炎は温かく美しく、
囲炉裏を囲む誰もがその炎を楽しめる。



木、土、石で造られる囲炉裏は、あらゆる意味で最も環境に負荷をかけない、
そして様々な調理をこなす「炉」の王者だ



 
群馬の法師温泉で見た本物の囲炉裏で僕らは開眼した



 嫌われものの煙は、夏はいい虫避けになり、湿気りやすい自然素材の家を乾かしてくれる。
実際、茅葺き民家を長持ちさせるにはこの「燻し」が不可欠だ。室内に灰が飛ぶのはさすがにいただけないが、
灰はミネラルの宝庫で上質な肥料になるだけでなく、灰の上澄みを飲んだりお風呂に入れたりする健康法まである。



 




最強の「炉」を使いこなす

    しばらくして、お隣のIさんが回覧板を届けにきた。
Iさんとは何度か飲む機会があり、そのたびに「囲炉裏はいいもんだよ」とつぶやくのを聴いていた。
再開した囲炉裏の炎を見て、「低く座れば煙さはやわらぐんだよ」と嬉しそうに言った。

 これまで焚き火、薪ストーブ、カマドといろいろ薪火を使ってきたが、
実際に囲炉裏を使ってみて驚くのは薪が長持ちすること、
そして調理炉としてのバリエーションの豊かさである。

子供でも運べる細い枝や柴などは、むしろ囲炉裏で使うにとても便利なものだ。
炎は中央に小さく立てる。そのために薪は小口からゆっくり燃やす。
この方法だと爆ぜやすいスギやクリ薪なども使うことができる。

 自在カギは実によく考えられた装置で、鍋を上下に動かすことで火加減を調節できる。
かたわらでゴトクを使えば鍋の保温もでき、位置も自由に変えることができる。
熾き火で焼きものや、灰に埋めて蒸し焼き料理も楽しめる。

竹串を斜めにかざして焼く方法は、炎を立てても素材が焦げずススが着きにくい。
釣りとキャンプが好きだった僕は、この方法でイワナなどを焼いたことがないわけではないが、
囲炉裏では串を灰に刺すので、焼き場所や角度の微妙な調節ができることに驚いた。

常に炎が上がる位置に薪を動かす操作を怠ると、囲炉裏の火はやがて消えてしまう。
しかし、
燃えさしに灰をかぶせておくと、灰の中で燠火のかたちで火が持続する。
昔の人はこの方法で火を絶やすことなく使ったのだ。

灰や薪を的確に操りながら炎と燠を使うとき、必要最小の燃料源であらゆることができる。
2年目の冬、僕らはマッキー君に一度も火を入れることがなかった。■





細い柴は火力がすぐに上がる。消し壷があると燠炭を貯めることができる





細い薪も大切にストック。スギの間伐材は専用のオノ(横割りで刃がついていない)で細かく割っておく





爆ぜにくい広葉樹の太い枝などは、長いまま中央を炎に載せてしまう。
炎が簡単に立ち、やがて燃え尽きて二本に分かれる






空き缶の蓋を抜いたものに網を載せて、熾火でパンを焼く




 
灰を深くかぶせれば消え、浅くかぶせれば朝まで燠が残る
完全に消したいときはこの上に鍋を直接載せる






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