MASANOBU IN PARIS,1990
写真・文:大内正伸
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ロダン、モロー
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とにかくロダンの彫刻は顔がいい。とにく女性の顔は抱きしめたくなるくらいいい。
が、男性の顔もよい。気高く、気品があり、優しいのに、哀愁をおびて悲しい。
ロダンの彫刻やデッサンには強烈なエロスを感じる。もちろん安っぽいエロスではなく、
神の側にある、目を焼かれるようなエロスだ。
ここはロダン最晩年の邸宅をそのまま美術館にしてある。
ロダンのエロスにくらくらと陶酔した後で、そのほてりを庭のベンチで醒ます。
と、ふと少年の頃、近所にあった洋館を思い出す。実家の近くに、
このロダンの邸宅ほどは大きくないけれど、周囲に際立った洋館があったのだ。
何本かの太いプラタナスもそれに雰囲気を加えていた。辺りは家の犬の散歩場だった。
狩猟を趣味としていた父はいつも猟犬を飼っていて、夕方の散歩(運動)は僕の日課だったのだ。
洋館のガラスに反射する西日や、プラタナスの葉音や、
口笛を吹いて駆け戻ってくる犬の黒い瞳などを、パリに来て思い出している。
モロー美術館もまた、本人の邸宅・アトリエをそのまま美術館に仕立てたもので、
ルーブルのような巨大なごった煮もいいが、このような瀟酒な美術館もまた、
なんとも西洋っぽく濃厚ですばらしい。棚の引き出しに本物のデッサンが入っていて、
それらも自由に閲覧できるのである。
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